それは、地獄という制度が成立してまだ間も無い頃。地獄は やっと鬼と亡者とが住み分けられ、統制の行き届いた街へと整えられていた。
そんなある日。一羽の鳥の声が、響き渡ったという。
只それだけだ。
たったそれだけで、地獄は一変した。地獄は恐ろしく広大であるのにも関わらず、たった一羽の鳴き声が その全土に轟いた。
その鳥は、『地獄鳥』と呼ばれていた。その存在は誰もが知ってたが、それは昔話に出てくる筈の "架空の存在"だった。
それが姿を現した時、地獄は滅んだ。
地獄に鬼にのみ感染する病が流出した。
閻魔大王も他の王も、その正体不明の病に侵され、地獄は統制が効かなくなった。鬼が次々と倒れ 死んでいく中、地獄は 自由となった亡者達で溢れかえった。亡者の影響は現世にまで及び、現世での奇っ怪な現象が多発した。悪念を断ち切れていなかった亡者が妖怪となり、人ならざる その力で現世の人々を殺すことさえあった。
来る日も来る日も地獄絵図が描き出される時間だけが流れた。
…鬼の数が約半数にまで減ろうとしていたとき、ようやく流行病の薬が発明された。即効性の薬は直ぐに広まり、それによって鬼は本来の力を取り戻した。
回復した鬼の力は とある鬼に統制され、反乱した亡者の力を徐々に鎮めていった。
こうして、地獄は再び平穏を取り戻した。
幾年が経った現在でも、未だに 逃亡した亡者が現世に潜んでいる。
だからこそ悪質な亡者達の取締は重要視されている。
そして、現世と地獄を行き来する 地獄鳥の捕獲。
__その二つが、生き残った全ての鬼に課せられた義務だった。それを率先して行うのが、閻魔直属の三勢力である。
全ては、『崩落』が繰り返されないように。
---------✁︎キリトリ✁︎--------
・epilog・
地獄鳥は、その名を口に出すのも憚られるほどの存在だった。そんな中(誰が言い出したのかは不明だが)、いつしか鬼達は 地獄鳥をその隠語として『山雀ーヤマガラー』と呼ぶようになった。
再度あの鳥の声が響き渡ったとすれば、一体どのような形で地獄が崩壊するのか。
それは誰にも分からない。